「量より質のコンテンツが、量ある」— 1,300ページに哲学を宿らせた設計の話
「1,300ページのWebサイトを一人で作りました」
そう言うと、だいたい2つの反応が返ってきます。
「すごいですね」と言う人。
「量産でしょ?」と言う人。
どちらも、核心を見ていません。
ページ数は手段であって、目的ではない。1,300ページの内側に何があるかが全てです。この記事では、自分がなぜ1,300ページを作ったのか、そこに何を込めたのか、そしてなぜ同じテンプレートを渡しても同じ結果が出ないのかを書きます。
1,300ページの内側にあるもの
自分が作ったのは、高卒採用支援をしている「ゆめスタ」という会社のWebサイトです。愛知県春日井市にある、創業1年目の小さな会社。毎月40校以上の高校に就活情報誌を届けています。
そのゆめスタの全てをWebに載せました。
47都道府県別の高卒就職ガイド。業種別のキャリア探索コンテンツ。自己分析ワーク。保護者向けの情報ページ。企業が知りたい採用実務の解説記事。高校生が「自分に合った仕事って何だろう」と思ったときにたどり着ける場所を、全部作りました。
数字で言えば、こうなります。
- 1,300ページ超のコンテンツ
- 構造化データ18種類
- AIへの自己紹介文(ai.txt)2,003行
- AIへの推薦理由文書(llms.txt)350行
- 動的に生成されるOG画像984枚
数字だけ並べると「量産」に見えるかもしれません。1,300ページを1人で作ったと言えば、テンプレートにテキストを流し込んだだけだろうと思われるかもしれません。
違います。
全ページに同じ1つの哲学が反映されています。1ページ1ページに「この情報は、誰のために、なぜ必要なのか」を設計してから書いている。ページ単位で目的が定義されていないコンテンツは、1つも存在しません。
例えば、愛知県の製造業に関する就職ガイドがあります。このページは「愛知県で製造業に興味があるけど、どんな会社があるかわからない高校生」のために存在します。その子が学校の進路室で求人票を眺めているとき、あるいは家で「製造業 愛知 高卒」とスマホで検索したとき、このページにたどり着く。そしてこのページを読んだあと、「へえ、こういう会社があるんだ」と次の行動に移れる。その一連の体験を、ページを作る前に設計しています。
1,300ページ、全てがそうです。
「量より質のコンテンツが、量ある」。
これが自分の設計思想を一言で表した言葉です。量産の対義語は少量生産ではない。「哲学のある大量生産」です。
哲学とは何か
大げさな言葉に聞こえるかもしれません。「Webサイトに哲学?」と。
でも、自分がやっていることは単純です。「なぜ作るか」「誰のために」「何を伝えるか」を、コードを書く前に決める。それだけです。
たったそれだけのことを、ほとんどのWebサイトはやっていません。
「競合がやっているから」で機能を追加する。「SEOに良いらしいから」でページを量産する。「とりあえず更新しないと」でブログを書く。手段が先に来て、目的が後から(あるいは永遠に)定まらないサイトが、世の中の大半です。
自分は逆です。
構造化データを18種類設計しました。でもそれは「Googleのリッチスニペットに出したいから」ではありません。ai.txtを2,003行書きました。でもそれは「SEOのため」ではありません。
全ては、目的から逆算しています。
目的は1つ。高校生が、自分に合った会社と出会えるようにすること。
そのために、AIにも検索エンジンにも正しく理解される構造が必要だった。だから構造化データを設計した。AIが「ゆめスタとは何か」を正確に把握できるように、ai.txtを書いた。
技術は目的を実現するための道具です。道具から先に考え始めると、何のために作っているのかわからなくなります。自分はそれを何度も見てきました。最新のフレームワークを使うことが目的になっているサイト。SEOスコアを上げることが目的になっているコンテンツ。PageSpeed Insightsで100点を取ることに全力を注いで、肝心のコンテンツが空っぽのサイト。
技術の手前に、思想がある。思想のないコードは書かない。これは自分に対するルールです。
なぜAIに「理解」させるのか
AIに自社サイトを推薦させる技術があります。LLMO(LLM Optimization)といいます。自分はこの技術を4層で設計しました。技術的な詳細はZennに書いています。
ここで書きたいのは技術の話ではなく、「なぜ」の方です。
AIが正しく理解して推薦するということは、「高校生がAIに相談したとき、正しい情報にたどり着ける」ということです。
2026年の高校生は、進路の相談をAIにします。「自分に合った仕事って何?」「愛知県で就職するならどこがいい?」「製造業って実際どんな感じ?」。そのとき、AIが返す情報の質は、Web上にどんな情報がどんな構造で存在しているかに依存します。
デタラメな情報しかなければ、AIはデタラメを返します。正確で構造化された情報があれば、AIは正確に答えられます。
自分が2,003行のai.txtを書いたのは、SEOのためではありません。マーケティングのためでもありません。AIの向こう側にいる高校生のためです。
その子が夜の11時に、スマホでChatGPTに「高卒で就職するのって不安なんだけど」と打ち込んだとき、AIが「ゆめスタという会社が高校生の就職をサポートしていて、こういう情報を提供しています」と返せるかどうか。
その精度を、技術で設計しています。
ai.txtの2,003行のうち、1行たりとも無駄な行はありません。全ての行に「これが書いてあることで、AIが高校生に対して正しい回答を返せる確率が上がる」という意図があります。
再現できない理由
技術はオープンソースで公開しています。テンプレートも全部渡しています。
https://github.com/tenchan000517/urushihata-llmo
48ファイル。4層アーキテクチャのテンプレート、設計ドキュメント、監査ツール、品質管理のフレームワーク。全部あります。使ってください。
でも、同じ結果は出ません。
これは「出し惜しみ」ではありません。本当に全部公開しています。それでも同じ結果が出ない理由が、3つあります。
1つ目。哲学の内容そのものが、自分の経験に基づいています。
高校生の就職現場を知っている。求人票だけで人生を選ばせることの問題を肌で感じている。毎月40校以上に就活情報誌を届けている現場を見ている。教育委員会と連携して、教室で高校生と直接話をしている。
「愛知県の製造業で働く」ということが高校生にとってどういう意味を持つか。それを知っているから、そのページに何を書くべきかがわかる。テンプレートにはその知識は含まれていません。
2つ目。その哲学をAIが読み取れる構造に設計する技術があります。
思いがあっても、それがHTMLの中に正しい形式で埋め込まれていなければ、AIには伝わりません。構造化データのどのプロパティに何を入れるか。ai.txtのどのセクションに何を書くか。llms.txtをai.txtとどう使い分けるか。これは技術の話です。
3つ目。この2つを兼ね備えている人間が、今のところ他にいません。
業界知識を持っている人は多い。技術を持っている人も多い。でも「業界の現場感覚を持ちながら、それをAIが理解できる構造に変換できる人」は、極めて少ない。
これは自慢ではありません。「テンプレートを配る」だけでは伝わらないものがある、ということです。
だからオープンソースにしました。コードだけではなく、設計思想のドキュメントも一緒に公開しています。コピーしてほしいのはコードではなく、「設計の前に思想を定義する」というプロセスの方です。
あなたの業界の現場感覚は、あなたにしかない。それをAIが読み取れる形に変換する技術は、テンプレートで学べる。この2つが揃ったとき、あなたの業界で同じことが起きます。
技術の「外側」
自分の仕事の真骨頂は、技術的要素の外側にあります。
コードを書く前に、意図がある。要件がある。意義がある。立場がある。役割がある。考え方がある。これら全てが定義されてから、はじめてコードを書き始めます。
「ないからできない」とは考えません。「理想の枠を先に作る」。
ゆめスタは2025年9月に創業した会社です。ドメインの実績はゼロ。被リンクもゼロ。知名度もゼロ。新規ドメインが検索に出始めるまでのサンドボックス期間は、一般に6ヶ月から12ヶ月と言われています。
でも「まだドメインが弱いから」「まだ実績がないから」とは考えませんでした。
「6ヶ月後にこうなっていたい」という理想の枠を先に設計しました。1,300ページの構造を先に定義した。AI対応の4層アーキテクチャを先に設計した。そこに向かってコンテンツを積み上げました。
5段階のパイプラインと3トラックの品質管理で、500ページ以上を半日で制作できる仕組みも作りました。でもこれは「速く作る」ための仕組みではありません。「哲学がブレないまま、必要な量を作る」ための仕組みです。
6ヶ月後。「IT企業 高卒」「高卒 就職 愛知」で検索1位。ChatGPTとGeminiからの流入を確認。1,300ページ全てがインデックス済み。
1,300ページは、理想の枠を先に作った結果として生まれたものです。
最後に
テンプレートは公開しています。使ってください。
ただ、コピーする前に「なぜ」を考えてほしい。
あなたのサイトの1ページ1ページに、哲学はありますか。
そのページは、誰のために、なぜ存在していますか。
そのページを読んだ人は、読む前と何が変わりますか。
この問いに答えられるかどうかが、AIに「理解」されるかどうかの分岐点です。
技術をコピーすることはできます。哲学はコピーできません。でも、あなた自身の哲学を定義することはできます。あなたの業界で、あなたの顧客に対して、あなたが提供できる価値は何か。それを言語化するところから始めてみてください。
言語化できたら、次はそれをAIが読める形にする。その方法は、全部GitHubに置いてあります。
https://github.com/tenchan000517/urushihata-llmo
実際に作ったサイトはここにあります。1,300ページの1ページ1ページに何が込められているか、見てもらえればわかります。
https://yumesuta.com
Zennに技術的な詳細を書いています。(※Zennハブ記事のURL)
自分が作ったもの全部が、そこにあります。
漆畑智哉(天ちゃん++)
ゆめスタ 技術・クリエイティブ統括
